2012年06月17日

かくして国は滅ぶ

かねがね俺はモノ作り大国日本の競争力の源泉たる基盤技術が、人材のヘッドハンティングのような形をとりつつ各分野において新興国に流出していることを憂いてきた。とりわけ良くも悪くも日本を「ベンチマーク」して猛烈な勢いでキャッチアップを進める韓国には用心すべきと考えてきた。

ここにきて韓国は、日本の最後の牙城とも言える先端素材・部品の分野で積極的な日本人技術者の採用活動を展開することを公にしたようだ(日経電子版)

現代自動車やLGグループなど韓国企業が日本で技術者の採用活動を始めた。狙いは日本が高い競争力を持つ先端素材・部品分野の強化だ。韓国政府も日本企業の誘致を後押しし、強い部品メーカーを自国や自社だけで育成する自前主義を転換する。自由貿易協定(FTA)の先行や、割安な電気料金など企業に優しい事業環境を受け、住友化学など日本企業も韓国進出を急いでいる
日本製造業の競争力の源泉ともいえる同分野の技術流出を懸念する声も出始めた
>現代自動車は15日、横浜市内のホテルで韓国人留学生を対象にした採用面接を開催した。電子制御、材料、環境分野などを専攻する大学生や大学院生に「エコカーの将来技術」に関するテーマについて発表させ、同社の研究開発部門の役員が面談、評価する。合格者は同社への最終面談の資格が与えられる。
>現代自動車が日本でこうした活動を手がけるのは初めて。世界販売台数で目標とする800万台が視野に入り、「量から質」への転換を目指す同社にとって、環境対応など先端技術の獲得は最大の経営課題だ。電気自動車(EV)などの開発は依然として日本勢が先行しており、「軽量化素材や電池素材の開発、量産技術を習得している日本で学ぶ学生への関心は高い」(現代自幹部)
>米ゼネラル・モーターズ(GM)向けなどにリチウムイオン電池を供給し、パナソニックやジーエス・
ユアサコーポレーションなどのライバルとなっているLG化学。ただ、自動車バッテリー部門を統括するイ・ハンホ氏は「開発のスピードが上がらない」と悩みを打ち明ける
>同社の強みはグループ内で素材開発から組み立てまで一貫してできること。だが、性能を左右する重要な材料を中心に「現在は半分くらいを日本メーカーから調達している」と話す。同社も大韓貿易投資振興公社(KOTRA)と組み、日本メーカーの技術者OBや日本の大学の韓国人留学生を対象に日本での入社試験・面談を検討。技術・人材の取り込みを強化する
>「この10年間の部品素材育成戦略はうまくいっていない」。今月11日から13日までソウル市内で開催した「海外投資フォーラム2012」。目玉となった日本企業を対象とした「部品素材投資環境セミナー」の冒頭、知識経済省(日本の経済産業省に相当)のイ・スンウ部品素材統括課長はこう切り出した
韓国政府は01年に部品素材特別措置法を制定し、先端分野の部品・素材の国産化を進めてきた。しかし、同分野は日本からの輸入が輸出を上回り続け、対日赤字は01年の105億ドルから11年には228億ドルと倍増。液晶パネルや半導体製造に不可欠な一部素材では8割以上を日本からの輸入に頼っている
>韓国政府は特別措置法を10年間延長する一方で、自前だけの育成方法を転換。日系企業の誘致も両にらみで急ぐ。韓国のFTAや政府の手厚い支援に魅力を感じる日系メーカーも増えており、自動車のボディーなどにも使われる炭素繊維では東レが、リチウムイオン電池材料などの分野では帝人が韓国への投資を増やす
>自動車関連だけでなく、電機向けの素材も日本企業の韓国投資が相次ぐ。住友化学は液晶パネルの材料を手掛ける子会社の東友ファインケム(ソウル市)のほか、サムスン電子などが出資するサムスンLED(水原市)と共同で発光ダイオード(LED)の材料製造会社を設立する
>東友ファインケムの橋本清保副社長はサムスン電子やLG電子など「ビッグプレーヤーの存在や日本より割安な電気料金は大きな利点だ。FTAを使い、第三国への輸出拠点として活用していく」と話す
高い法人税率や円高など「6重苦」に苦しむ日本企業にとって、韓国進出は短期的にはメリットが大きい。ただ、日本の製造業を支えてきた部品・素材産業の厚みが失われる空洞化問題と、技術流出のリスクが高まる懸念は残る。日本政府や企業には長期的な課題にどう対応するかを視野に入れる必要もありそうだ


サムソンやLG、現代など一部財閥系企業グループの躍進で先進国入りを果たしたかに見える韓国だが、素材・部品などの基盤技術についてはもともと開発に力を入れない体質もあってか今だ脆弱のようだ。これまでは他所から買って売ればいいというスタイルでやってきたが、技術はいずれ陳腐化する。どこかでブレイクスルーを行わなければ継続的発展は見込めない。

これまでも韓国企業による日本人リタイア技術者の囲い込みの話は相当にあったが、ここにきて日本人技術者採用が公式に語られてきたのは、いよいよ形振り構っていられない状況に至ったと言えるのだろう。一方記事にもあるように、円高、法人税高、エネルギーコスト高、と政治の無策も手伝って日本企業の経営環境がますます悪化していることを睨んでの、足元を見た短期集中戦略とも言え、韓国らしいと言えば誠に「らしい」。

とはいえ、自由主義国家として彼の国への進出を企業でも個人でも止めることは基本的にできない。愛国心などの精神論だけで民間の行動を縛ることは不可能な時代だ。実際韓国のエネルギーコストは馬鹿馬鹿しいほど安い。もちろん日韓の事情に違いはあるし、過去のインフラ投資には日本が多大の援助をしたおかげで今日があることを思えば一抹の不条理さえ覚えるがこれも愚痴にしかならぬ。

いまこそ日本政府は国内が企業にとって魅力ある活動拠点であり市場であるよう、税制やエネルギー供給体制の抜本的な見直しを含め改革を断行し、日本企業や技術者のリテンションを図るべきだ。基礎技術の流出は一民間企業の競争力流出以上に、日本の国力の流出であるという危機感をこそ、政治に要求したい。いつまでもコップの中の嵐のような愚にもつかない政争をしている場合ではなかろう。
posted by 三四郎 at 10:47| 千葉 ☔| Comment(2) | TrackBack(0) | 政治・経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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